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広告媒体が経営者に求めている、3つの変化

Google・Meta・TikTokの直近6ヶ月の公式発信を読み込み、三社が共通して経営者に求めている3つの変化を整理しました。自動化の範囲設計、測定の再定義、声の主語。どれも広告の打ち方ではなく「経営の構え方」の話です。
執筆:令和瑞芳合同会社 代表 小野谷拓真

Google・Meta・TikTokが直近6ヶ月間(2025年10月〜2026年4月)に出した公式発信をまとめて読み、感じたことがあります。3社とも、経営者・運用者に「変わってくれ」と求めているフェーズに入っています。

「広告の打ち方を変えてほしい」ではありません。「経営者のほうが変わってくれ」という要求です。

ここでは、媒体の発信をそのまま鵜呑みにするのではなく、三社に共通する構造を読み取り、経営判断としてどう受け止めるべきかを整理してみました。

本記事の構成
1. 「AIに何を渡し、何を渡さないか」を決めなさい —— 自動化の範囲設計
2. 「何を測っているか」を経営課題にしなさい —— 測定の定義
3. 「誰の声で届けるか」を戦略として扱いなさい —— 声の主語

1. 「AIに何を渡し、何を渡さないか」を決めなさい

三社の自動化は、もう"オプション"ではない

2026年現在、三社の自動化は「便利な追加機能」ではなくなりました。広告プロダクトの基本設計そのものに組み込まれています。

Googleは「AI最大化設定(AI Max)」を検索キャンペーンに本格導入しました。ターゲティング・クリエイティブ・入札を包括的にAIが最適化する仕組みで、導入企業ではコンバージョン獲得につながった検索クエリのカテゴリが18%増加、コンバージョン数が19%増加したと公式に報告されています。

P-MAXでは地図アプリWazeの広告インベントリが追加され、チャネルパフォーマンスレポートも全キャンペーンに展開されました。自動で配信面を広げ、その結果を可視化する。方向性は明確です。

Metaは「Advantage+ セールスキャンペーン」で手動設定比コンバージョン単価9%改善という数字を出しています。

さらに2026年3月にはAIエージェント「Manus」との連携を発表。広告マネージャのデータからレポートを自動生成し、クリエイターマーケットプレイスで最適なパートナーを見つけるところまで、エージェントが処理する世界が始まりました。

(「Manusを使うとBANされた」という悲鳴がXで大変よく聞こえてきます。私は問題ないですが、心配なのでフル活用はしていません…。)

一方、TikTokは「GMV Max」という、チャネル全体のROI最大化に特化した広告ソリューションを展開しています。

TikTok Shop上でライブコマースを行う「ぞうねこちゃんねる」はGMV Maxを活用し、ROI 67倍を記録しました。

三社が口を揃えて言っていること。それは「細かい設定を手動でやるほど、AIの学習を邪魔する」ということです。

ただし、これをそのまま真に受けてはいけません

ここで正直に書いておきたいことがあります。

媒体が「自動化に任せろ」と言うとき、そこにはポジショントークが含まれています。

Google・Metaの収益モデルは「広告主がより多くのインベントリ(広告在庫)に、より多くの予算を配信してくれること」で成り立っています。ブロード(緩いターゲティング)に広げるほど、イベントリに予算が行き渡り、儲かる構造です。

P-MAXの「全チャネル自動配信」はその最たる例です。そういった配信は、全ての商材において最適とはとても言い切れないのが現状です。

実際、ターゲティングが明確に定義される商材や、月の広告予算が数十万円規模の場合、ブロード配信に切り替えて成果が改善した経験がない、という声は少なくありません。

検索ボリュームが限られ、ターゲット層が狭い商材だと、自動配信が無関係なクリックを拾い、CPAが悪化する。現場レベルでは珍しくない話です。

(もちろんそういうケースは、バナー・広告文が悪いだけのケースも多々ありますし、PV・CV以外の計測データを媒体側に渡せていないなど、設定レベルの問題もあったりしますが。それを差し引いても、全商材ブロードにはまだ踏み切れるものではない気がします。)

では、何が論点か

問題は「全部AIに任せるか、全部手動でやるか」という二択ではありません。

「AIに渡す」とは、入札の自動化や配置面の最適化のような、すでに当たり前になった話ではありません。もう一段深い部分です。

たとえば検索広告なら、AI Maxのブロードマッチに対して「検索テーマ」や「オーディエンスシグナル」で方向性だけ示し、人間が想定しなかったロングテールクエリからのCVを拾いにいく設計。

SNS広告なら、コンバージョンAPIを通じてCRMの成約データや顧客のLTVを媒体側に返し、「量」ではなく「質」でAIの学習を回す設計です。

つまり、AIに渡すべきは「作業」ではなく「データ」です。どんなデータを、どの粒度で、どのタイミングで媒体に返すか。ここの設計精度が、同じ自動化でも成果を分けるポイントになっています。月50万の予算でも、この部分は確実に差がつきます。(Claude Codeを活用したエンジニアリングでも同じようなことが言われていますね。)

一方で、ターゲットの"定義"そのもの、コンバージョンポイントの設計、クリエイティブの方向性判断。 ここは依然として人間の仕事だと思われます。ニッチ商材であるほど、この比重は大きくなります。

(「クリエイティブの方向性判断」は、あくまで「方向性」です。日々の分析・制作・案出しには、私もClaude Maxなしには成り立たないぐらい活用しています。)

つまり経営者に求められているのは、「AIに任せろ」を鵜呑みにすることでも、「まだ、人のほうが正しい」と人を信用することでもありません。

自社の事業構造に合わせて、AIに渡す判断と人間が持つ判断を設計すること。 これは広告担当者やパートナーに丸投げできる話ではなく、事業の構造を理解している経営者にしかできない意思決定です。

本章の参考資料
Google広告ヘルプ「Google 広告の 2025 年のハイライト」(2025年12月8日)
Google広告ヘルプ「P-MAX キャンペーンで新しいインベントリとチャネル パフォーマンス レポートを利用する」(2025年11月6日)
Meta for Business「MetaのビジネスツールやクリエイターツールでManusを活用する」(2026年3月18日)
Meta for Business「2025年のサイバー5を振り返る: 何が効き、何が変わったか?Q5の勝ち筋は?」(2025年12月15日)
TikTok For Business「月商2億円超の『ぞうねこちゃんねる』が明かす、TikTok Shop成長の方程式」(2026年2月10日)

2. 「何を測っているか」を経営課題にしなさい

Metaが「クリック」の定義を変えた

2026年3月、Metaは広告の効果測定において地味ですが重大な変更を発表しました。

これまでMetaの「クリックスルーアトリビューション」には、リンククリックだけでなく、いいね・シェア・保存といったソーシャルインタラクションも含まれていました。それをリンククリックのみに限定するという変更です。

一見、レポート上の数字が減るだけの話に見えます。ですが本質はそこではありません。

Metaが同時にやったのは、「エンゲージスルーアトリビューション」という新しい計測カテゴリの創設です。(これ大事)

Metaはいいね・保存・シェアからのコンバージョンを、クリックとは別枠で可視化する仕組みに切り替えました。

要するに、「全部ひとまとめにして"クリック"と呼んでいたものを、意味が違う行動ごとに分けて測れるようにした」ということです。

背景にはデータがあります。Metaによると、リール動画のオンライン購入コンバージョンの46%が、広告の視聴開始からわずか2秒以内に発生しています。

「広告をクリックして、サイトに遷移して、購入する」という、従来の導線では説明できない購買行動が、すでに半分近くを占めている計算です

さらに、動画広告のエンゲージビューの定義も、10秒から5秒に短縮されました。測定の基準そのものが、生活者の行動スピードに追いつこうとしています。

Googleは「この広告がなかったら何が起きなかったか」を問える環境を作った

Google広告のインクリメンタリティテストも、2025年に大きなアップデートがありました。

インクリメンタリティとは、「広告を出したから起きたこと」と「広告がなくても起きていたこと」を因果的に切り分ける測定手法です。

効果測定としては最も信頼性が高いものの、これまでは1回のテストに10万ドル以上かかり、大企業しか実質的には使えませんでした。

Googleはこの最低費用を5,000ドルまで引き下げました。手法の精度も上がり、確実な結果が出る頻度が最大50%増加したと報告されています。

さらにGoogleは、MMM(マーケティングミックスモデル)×インクリメンタリティ×アトリビューションの三層で測定を組み合わせるアプローチを提唱しています。

「一つの指標では全体像が見えない」ということを媒体自身が認めている格好です。

これが経営者に関係ある理由

月次報告が、「CPAいくらです」「ROASいくらです」で終わっている場合、媒体側がすでに前提としている測定の枠組みとはズレています。

何を「成果」と定義し、どう測り、それを次の投資判断にどうつなげるか。一見テクニカルな話に見えますが、これは事業の意思決定そのものです。

パートナーや広告担当者に「測定のことはお任せします」と言うのは、「うちの事業の評価基準は、現場に任せます」と言っているのに近い。

媒体がルールを変えた以上、経営者がこの領域に無関心でいることのリスクは、以前よりずっと大きくなっています。

本章の参考資料
Meta for Business「ソーシャルファースト時代に向けて広告の効果測定を簡素化する」(2026年3月3日)
Meta for Business「リールの力を解明する: クリエイティブ戦略で成功を導く方法」(2025年12月2日)
Google広告ヘルプ「インクリメンタリティ テストの改良により、メディア測定機能が強化され、ROI をより明確に把握できるようになります。」(2025年11月11日)
Google広告ヘルプ「Google 広告の 2025 年のハイライト」(2025年12月8日)

3. 「誰の声で届けるか」を戦略として扱いなさい

三社が同時にクリエイター連携を構造化している

三大プラットフォームが2025〜2026年に共通して力を入れている領域があります。クリエイターとブランドの連携です。

Metaは「パートナーシップ広告」で明確な成果を示しています。通常キャンペーンにパートナーシップ広告を追加したケースでは、CPAが19%減少、クリックスルー率が13%向上、ブランド意向は71%向上しました。

Metaはクリエイターのプロフィールに広告パフォーマンスの予測を示すバッジの導入も発表しています。勘と経験に頼っていたパートナー選定を、データで判断できるようにしている形です。

TikTokは2026年のトレンド予測レポート「TikTok Next 2026」で、「リアリティ(Reali-TEA)」をトレンドシグナルの筆頭に挙げました。

TikTok Next 2026 トレンドレポート

作り込まれた広告よりも、ありのままのストーリーや舞台裏の瞬間がユーザーの共感を生む、という主張です。

コメント欄を通じてブランドと交流したユーザーの再購入率は1.6倍。広告運用でも一般的になってきた「Spark Ads」によって、ユーザーのオーガニック投稿をそのまま広告配信できる仕組みも整っています。

Googleも動いています。YouTube広告で「オープンコール」という仕組みを導入し、AIでコンテンツと視聴者を分析、企業の商品に合うクリエイターコミュニティとマッチングする取り組みを始めました。

三社がほぼ同時期に、同じ方向へ投資している。これは偶然ではないでしょう。

「企業が自分の声だけで語る広告には限界がある」ということを、媒体自身が構造として認めているわけです。

「難しい商品」ほど、第三者の声が効く

TikTok For Businessのブログで紹介されている東京海上日動あんしん生命の事例は、この構造を象徴しています。

保険は典型的な「理解コストが高い商材」です。同社のDXマーケティング部は、TikTok上でユーザーの日常的な悩みに寄り添う動画を年間200〜300本制作しています。

興味深いのは、当初は若年層へのリーチを期待してTikTokを始めたにもかかわらず、実際にはミドル・シニア層からの反応が良かったという点です。持病があって保険加入をあきらめている人に「入れる保険があるよ」と勧めるような、身近な会話を再現した動画。それがそのまま資料請求につながりました。

同社のデジタルマーケティング予算は10年前の約20倍になっているそうです。成果が出ているから予算が増えている。この順序が重要です。

(ただし、私が「どのアカウントかな?」と必死に探したのですが、当該アカウントは見つかりませんでした。緩和型医療保険でたくさんのCVをした、といっていますが、どんな動画なのか……消しちゃったのかもしれません。)

もう一つ、TikTok Shopで月商2億円を超える「ぞうねこちゃんねる」の事例も示唆に富みます。

ぞうねこちゃんねる

運営元のCellestが最も重視している指標は「滞在維持率」で、視聴者にどれだけ長く配信に留まってもらえるか。

商品のセールストークよりも、ライブクリエイターのエンターテインメント性にフォーカスしています。

視聴者の名前を覚え、前回の会話を踏まえたコミュニケーションを行う。「こういう体型の方には似合わないので、買わないでください」とはっきり伝えることもあるそうです。

この正直さの積み重ねが、約8割というリピート率につながっています。

クリエイターやUGCは「外注」ではない

これらの事例に共通しているのは、クリエイターやユーザーの声を「外注制作物」として扱っていないことです。

自社の広告コミュニケーションに、第三者のリアルな声をどう組み込むか。どういう基準で選び、どう増幅させるか。これは広告運用のテクニックではなく、ブランドのコミュニケーション戦略の話です。

そして、「自社の広告の主語を企業以外にも広げる」という判断は、広告担当者だけではできません。

ブランドの声をどこまで開くか。これは経営者の意思決定です。

本章の参考資料
Meta for Business「クリエイターとブランドのパートナーシップを広げる新しいAIツール」(2025年12月11日、2026年1月30日更新)
Meta for Business「Threads広告: 1周年を迎えて – 全世界の利用者と市場にリーチを拡大」(2026年1月21日)
TikTok For Business「なぜ今『リアリティ』がブランドへの信頼を高めるのか ― 最新トレンド予測レポート『TikTok Next 2026』解説①」(2026年4月3日)
TikTok For Business「最新トレンド予測レポート『TikTok Next 2026』公開」(2026年2月26日)
TikTok For Business「生活者の悩みに寄り添う情報を発信 "理解の解像度"を高め、CV数を向上」(2026年2月17日)
TikTok For Business「月商2億円超の『ぞうねこちゃんねる』が明かす、TikTok Shop成長の方程式」(2026年2月10日)
Google「2026 年のデジタル広告とコマースの展望」(2026年2月18日)

おわりに:媒体が変わったのではない。媒体が「前提」を変えた

ここまで見てきた3つの変化を整理します。

  1. 自動化の範囲設計 —— AIに何を渡し、何を人間が持つかを決める
  2. 測定の定義 —— 何を成果と呼び、どう因果を検証するかを決める
  3. 声の主語 —— 企業だけで語るのか、第三者の声を構造に組み込むかを決める

どれも「広告の打ち方」の話ではありません。「広告に対する経営の構え方」の話です。

そして、どれも広告担当者やパートナーに丸投げできるものではありません。事業の構造を理解し、投資の判断基準を持っている経営者にしか決められないことです。

媒体のルールが変わった以上、古い前提のまま予算を積んでも、成果が頭打ちになる構造はもう見えています。

逆に言えば、この3つの「構え方」を更新するだけで、同じ広告費でも見える景色は変わるはずです。